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京都地方裁判所 昭和35年(ワ)1012号 判決 1962年11月20日

原告 内海照夫

被告 帝帽販売株式会社

主文

被告は原告に対し金四〇万円及びこれに対する昭和三五年一〇月一日以降支払済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告が金一〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求めその請求の原因として、「被告は、(一)訴外株式会社だるま衣料が昭和三五年六月二三日自己を受取人として振出した金額一五万円満期同年九月三〇日支払地大阪市支払場所株式会社静岡銀行大阪支店支払人被告振出地京都市なる為替手形一通に支払人として引受を為し、(二)同年八月二〇日訴外互興繊維株式会社を受取人として、金額二五万円満期同年九月三〇日支払地及び振出地いずれも大阪市支払場所前同銀行支店なる約束手形一通を振出し、前記両手形の各受取人はそれぞれその手形を原告に対し裏書し、原告は現に右各手形の所持人であつていずれも訴外株式会社京都銀行に取立委任裏書の上、同銀行をして満期に支払場所で呈示してその支払を求めさせこれを拒絶せられたので、被告に対し右手形金計四〇万円及びこれに対する満期の翌日なる昭和三五年一〇月一日以降支払済に至る迄手形法所定年六分の率による利息の支払を求める。」と陳述し、被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として、「被告が原告主張の引受及び振出をしたことはこれを否認する。被告会社はその大阪支店において昭和三五年五月末頃訴外山上九一郎に対し金融斡旋を依頼しその準備として、(一)右訴外人の持参しその振出人欄に原告主張の記載のみのある替替手形用紙の金額、支払期日、支払地、支払場所の各欄にそれぞれ原告主張のとおり記入し、その支払人欄に支店長の記名印を押し、その引受人欄に記名押印をしたのみでその余の要件及び引受日附の記入をせず、(二)被告会社手持の約束手形用紙の金額、支払期日、支払地、支払場所、振出地の各欄にそれぞれ原告主張のとおり記入し、振出人欄に記名押印したのみでその余の要件の記入をせずにいたが、後右訴外人に対する依頼を取止め、これをそのまま右支店内に保管していたところ、同様準備し保管していた他の未完成手形とともに何者かにより窃取せられたことがあり、本件各手形は右窃取せられた二通であつて、被告は当初これらを紛失したものと考え、同年六月二九日頃大阪西警察署にその旨届出で、次で同年七月九日大阪簡易裁判所に申立てて公示催告手続中(同年(へ)第五八三号)であつたもので、そのうえ原告は右事情を知つて本件各手形を取得した者であるから、原告の請求は失当である。」と陳述した。<立証省略>

理由

被告会社の大阪支店長大橋秀夫がその権限に基き、原告主張の本件為替手形のうち金額、満期、支払地、支払場所、支払人の各要件を記入又は記名印を押し、振出人の記載を除くその余の要件の記載をしないで、これに引受人として記名押印し、原告主張の本件約束手形のうち金額、満期、支払地、支払場所、振出地の各要件を記入し、その余の要件の記載をしないで、これに振出人として記名押印したことは被告の認めるところである。

然しながら右事実に証人大橋秀夫の証言を綜合すると、被告会社の右支店長は昭和三五年五月頃予て知合の訴外山上九一郎に金融斡旋を依頼することとし、その準備として右訴外人の持参しその振出人欄に原告主張の文字の印刷のある為替手形用紙ならびに被告会社手持の約束手形用紙にそれぞれ前記のとおり各要件を記載し記名押印したが、後右訴外人に対する依頼をしないこととなり、これをそのまま右支店内に保管していたところ、何者かにより窃取せられたものであることが認められ、右認定に牴触する証人木本堅一の供述部分は信用せず他にこれを覆えすべき確証がなく、他面証人木本堅一の証言及び原告本人訊問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると、訴外互興繊維株式会社代表取締役木本堅一は前記山上九一郎から、原告主張の各手形要件の記載があり前記株式会社だるま衣料名義の振出、裏書(その各署名の真否は暫く措く。)、被告名義の引受のある本件為替手形ならびに振出日及び受取人が白地であるほか原告主張の各要件の記載がある被告振出名義の本件約束手形を受取り、そのうち右約束手形の受取人として原告主張の記載を補充し自己が代表取締役たる前記会社の裏書をした上、右両手形を原告に交付し、原告において右約束手形の振出日を補充したものであることが認められ、右認定に反する証拠がなく、してみると本件各手形は被告がその認める前記要件のみを記載した未完成の手形に、未だこれを流通に置く意思を確定しないままでその引受人或は振出人としての署名を為し、後その流通に置くことを取止めたまま保管している裡、その意思に反して他人により流通に置かれ、その余の手形要件(但し約束手形の振出日を除く。)を補充せられた後原告の手に入り、原告によりその約束手形の振出日を補充せられたものといわなければならないが、右各手形は、被告がその占有を失つた当時、前記各要件の記載と署名がありその他の要件が白地となつていたのであるから、通常の白地手形と認めるに足る外観を有していたものというべく、従てその当時未完成の手形であり被告の交付もなかつたのではあるけれども、手形が一般に流通証券であることに鑑み、被告は手形法第一六条及び第七七条により、裏書の連続ある原告に対し、原告がその取得につき悪意又は重過失のない限り、引受人又は振出人として本件各手形上の義務を負うものと解するのが相当である。

そうして原告が本件各手形取得の当時右悪意又は重過失のあつたことはこれを認むべき証拠がなく、反て前掲証人木本堅一の証言及び原告本人訊問の結果によれば原告は前記互興繊維株式会社に対する商品の売掛代金の支払のため同会社代表取締役木本堅一から本件各手形の交付を受けたもので、右各手形に関する事情を知らなかつたものであることが認められ、これに前認定にかかる原告取得当時の本件各手形の状況を併せ考えると、原告は右知らなかつたことに重過失はなかつたものといわなければならない。もつとも、被告が本件各手形について昭和三五年七月項大阪簡易裁判所に公示催告の申立をしたことは成立に争のない乙第三号証により明らかであり、従て右公示催告がその頃官報に掲載せられたであろうことも容易に推認しうるところであるけれども、これらの事実は、原告がその当時右公示催告の申立を知つていたと認むべき証拠のない本件において、原告をしてその手形取得につき悪意ならしめ又は重過失あらしめるものではない。

そうして原告がその主張のとおり本件各手形を取立委任裏書の上、満期に支払場所で呈示してその支払を求めこれを拒絶せられたことは、甲第一第二号証中当裁判所が弁論の全趣旨により真正に成立したと認める当該裏書部分と成立に争のない附箋部分により、これを認めることができるから、被告に対し右手形金計四〇万円及びこれに対する満期の翌日たる昭和三五年一〇月一日以降支払済に至る迄手形法所定年六分の率による利息の支払を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内貞次)

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